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『就活って何だ—-人事部長から学生へ』

学生の就職活動/企業の採用活動が佳境に入りつつある。昨年春の採用は約25%採用数が減少という事態となり、前年までの売り手市場から一転、就職氷河期の再来となった。だが、この春の採用は、昨年以上に厳しいものになりそうだ。

昨年の採用減では、一昨年秋のリーマンショックによる景気後退が主たる要因だとみなされた。米国の消費の落ち込みに端を発する景況の悪化。前年までのような好況に根ざした採用計画は難しい。それが昨年の背景だった。
だが、この春の厳しさは昨年とは性質が異なるようだ。一言で言えば、日本経済の構造的な変化。それが根っこだ。
2つの要因がある。ひとつは中国など新興国の隆盛を含めた新しい経済環境のための事業戦略の見直し。もう一つは、少子高齢化/人口減少とデフレという日本の社会・経済環境。この二大要因に対処すべく、各企業は人事・採用計画を見直しつつあり、それが採用計画にも表れている。

それは消費動向を見ても明らかだ。たとえば小売。
百貨店は凋落に歯止めをかけられず、長く右肩上がりだったコンビニ業界ですら急激にブレーキがかかっている。伸びているのは、人件費があまりかからない通販か、ユニクロなど製造直販だ。この変化が小売流通の世界だけで閉じているわけもなく、当然取引先=メーカーサイドにも表れる。
これまで百貨店、GMS(スーパーマーケット)、コンビニと分けていた営業担当があるとすれば、店舗が減った分、まとめて複数の小売を担わせて営業人員を削ることができる。一方で、伸びている通信販売などのチャネルがあれば、そちらのほうに宣伝やPRを仕掛ける人的配置をとる。要は、モノの出口に変化があれば、それを送り出す側の人員計画にも変化が出るということだ。
これが新興国対応となれば、マーケティングなり、販売チャネルなり、宣伝手法なり、合弁のカウンターパートとの対応なり、その人的資源の戦略は変わってくる。
一人採用するということは、年間数百万円、終身雇用であれば数億円の投資を意味する。であれば、そのコストに見合うリターンを生み出せる人材を精査することは必然だろう。

学生側もそんな時代の変化はある程度は感じているかもしれないが、企業側の感覚との彼我はあまりに大きい。そう思うと、単に採用数が絞られるだけでなく、いまの大学生のおかれた環境に同情を禁じ得ない。なにしろ自分が学生の頃はバブル真っ最中であり、厳しい経済環境でもなければ、先の見えない変化におかれていたわけでもなかったからだ。

昨秋に出した『就活って何だ』という本は、JR東海、三菱東京UFJ銀行、 三井物産、資生堂、全日空、サントリーなど人気企業15社の人事部長に、採用のあれこれを尋ねて構成したものだ。そこで語られた話は、これから面接を受けようとする学生には少なからず役に立つものと思う。どの企業の人にも少なくとも2時間、人によっては3時間以上、採用についてあれこれとしつこく尋ねたものを圧縮している(いわばこちらが人事部長に深掘りさせてもらった)。ただ、そこで語られた人物像は、どの会社も遠く離れているわけではない。詳しくは自分で読み取ってもらうしかないが、自分の頭で考え、動き、ガッツがあるといった普遍的な要素は、どの会社でも共通しているのだ。
「就活」というイベントのような略語にはいまも馴染めないが、厳しい採用環境の中、本書が少しでも学生の方々の助けになればと思う。

文春新書の特設サイトはこちら(数名は動画インタビューもあります)。