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新刊『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』(河出文庫)

ビッグデータ社会の希望と憂鬱
 こんにちは。ブログらしいブログも書かずに時間が経ってしまいましたが、また新刊の案内です。今度は久しぶりにインターネット関連です。というか、正確に言えば、2005年に出した『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか』(アスペクト)の文庫版で、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』といいます。
 とはいえ、ただ文庫化して改題したわけではありません。
 情報技術の世界で7年も経てば、技術は大きく進化します。ある意味、それは立派な歴史です。であれば、それを残しつつ、2012年現在出てきている事象を捉えるべきでしょう。
 そこで、本書では『〜幸せにしたか』の10章のうち、計8章で現在顕在化しつつある事象や問題を新たに追記することにしました。いま、そして今後の情報技術と社会を見据えたとき、もっとも大きな課題となるのは、個々人から発生するデータの扱いでしょう。このデータの問題こそ、当初の『〜幸せにしたか』で遡上にあげていたものでした。
 こうしてウェブにアクセスしている最中にも、そしてスマートフォンを持参する間も、あるいは電車や車で移動したり、店舗で買い物や飲食をするときにも、データは発生し、収集されています。多くは意識せずにセンサーなどで収集されているものですが、このデータは膨大な量になっています。そして、それを企業は商用利用に役立てようとしています。
 いまそうした技術は一括りに「ビッグデータ」と呼ばれています。
 ビッグデータとは、非構造化されている膨大なデータ群(つまり収集はされたものの、そこから適切な意味を見出されていない状態のデータ)を組み合わせてみることで、新たな知見を得る技術です。スーパーやコンビニで買い物をするとき、従来はレジのチェッカーが見た目で「男性」「20代」などとレジに指定して、買い物をしていたことでマーケティングデータとしていました。でも、各種会員カードをそこに挟めば、正確に「26歳」「男性」「住所」などがわかるうえ、その商品をその人が年間(あるいは月間)どれくらい購入しているかから、ふだん何時頃買い物をし、具体的な商品(類似商品と比べて、どれを購入しているか、購入額はどれほどか)として何を購入しているかがわかります。そうした詳細なデータがわかれば、その人が来店する少し前に、携帯電話のメールにクーポンなどを送信し、それによって「釣られ買い」などで売上を伸ばすことも可能です。こうした分析および戦略立案、実行を可能にするのが、ビッグデータの技術です。
 小売などで言えば、割引やクーポンなどで利用者に一定のメリットをもたらしてくれるものが多いのが特徴です(多くのウェブの無料サービスも同様です)。
 一方で、こうして収集されていくデータはどのように扱われていくのかはまだわかりません。現実に、スマートフォンのアプリには野放図に通話履歴や通話先、電話帳情報などを野放図に収集する悪質なものもあります。
 さらに言えば、収集する側だけではなく、積極的に自分の情報を出す人も一般的です。いまやTwitterやFacebookをはじめとしたソーシャルメディアで、きわめてプライベートなことも投稿する人も少なくありません。そう考えれば、今後プライバシーや個人情報といった概念も変わっていく可能性もあります。そして、再度ビジネスの側を見れば、そんなあまたの「呟き」さえ、膨大に収集して解析することで、株価の予想などに利用・商用化されつつあります。
 今回河出書房新社で文庫化する『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』では、そうしたビッグデータ技術の広がり、到来を見据えたうえで、社会や個人はどう変化していくのかを論じています。情報技術の利便性という強い力は、身体的な障害がある人に力を与えたり、情報から隔絶された弱者に対しても知識を与えたりと、メリットは多々あります(そして私自身、この技術の利便性に浴しています)。ただ、そのトレードオフとして見過ごしがちで失われていくものもあります。それを考えてみたのが本書です。
 ぜひお読みいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。